【5】全国大会(後編)…史上初!全国制覇の瞬間 高砂で新見が日大三にサヨナラ勝ちし、4強入りを決めた同じ頃、明石では南東北代表・羽黒(山形)が天理を下し、同じく4強入りを決めていた。この羽黒こそ、新見の次なる相手であり、決勝進出を懸けた準決勝の相手となるが…同時進行の準々決勝、もちろん羽黒というチームの全容は見えていない。新見は、またまた中身の見えないチームと対戦することになるのである。
翌、8月28日。この日から行われる準決勝は、明石のみでの試合になる。残るチームは4つ…富山商、神港学園、羽黒、新見。この4チームから、決勝に駒を進める2チームが決められる。その第1試合、富山商×神港学園は、延長11回の熱闘の末に富山商が制し、決勝戦へ駒を進めた。その富山商に次いで、決勝進出を果たすのは、新見か、羽黒か…準決勝・第2試合の幕が開く。
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午後1時の試合開始予定は少し早まった。準々決勝と同じスタメンで、3試合不動のスタメンの新見はさらに、今日も後攻。あと1勝で決勝進出という大変な場所でありながら、なぜか負ける気が全くしない…「後攻なら勝てる!」という絶対的な自身があったからだ。守り勝つ新見野球を展開するには絶好の環境だった。
無論、新見の先発は元家。ここまで2連投、さらに昨日164球を投じているのに、疲れの色も全く見せず、1回表の羽黒を3人で斬る。するとその裏、全国大会に来て快音のない1番・渡辺が、カウント0‐3から臆せず流し打ちで全国大会初安打を記録し、さらにその足で盗塁。チャンスメイクすると、そこから4番・谷が、昨日に引き続き適時二塁打を放ち、渡辺を本塁へ還す。1対0…なんと、新見は3試合連続で初回での先取点となったのである。
このリードをもらった元家が羽黒打線を打たせて取る投球でかわしつつ、1対0のまま迎えた5回裏。再び、1番・渡辺が今度は2球目を叩き、今日2本目のヒット。さらに、すかさず今日2個目の盗塁を決め、2番・田辺の犠打、3番・森口の死球などを絡めて一死二三塁のチャンスを作ると、ここで4番・谷のエンドラン空振りの間に、三塁走者の渡辺が勢いで本塁突入。捕手のタッチをかいくぐりホームインし、貴重な貴重な追加点となる2点目を奪う。
元家は6回、羽黒に1点を返され、1点差と詰め寄られるが、新見ナインの守備で、随所に好プレーが目立ち、羽黒打線の「つながり」を切る。そのまま9回表、元家が最後の打者を見逃し三振に抑えてゲームセット。最後は元家の粘りの投球で羽黒から逃げ切った。
一塁側の新見応援団は総立ち、三たび流れる新見の校歌をともに歌った。歌い終わり、新見ナインがスタンドへの挨拶をすると、ズワアァ〜という地響きのような歓声が沸き起こった。…ついに、岡山県勢25年ぶりの決勝進出を果たした新見。全国制覇へいよいよマジックを1とし、いよいよ明日、富山商と日本一をかけて戦うことになる。…その実感も、さほど感じないままに。
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ついに迎えた決勝戦。8月29日、兵庫県明石市はやや曇り空の天候。午前10時過ぎ、球場に入ると…昨日までの明石球場とは全く違う、異様な雰囲気を醸し出していた。球場に入るや否や、監督を取り囲む報道陣。スタンドに設置された、本物のカメラ。こんな環境で野球やるのは初めてだ。こんな経験、もうないな…と思った。
球場では、先に富山商がアップをした。そして11時すぎ、新見が球場でアップを開始。同時に、新見市からの大応援団が、はるばる3時間かけて、明石球場に到着。応援団オリジナルの青い帽子を被った人の群れが、青いメガホン片手に、ドッと押し寄せてくる。バス10台は、ざっと500人…その規模の大きさは想像以上だった。明石球場の三塁アルプスは、みるみるうちに埋まっていった。
明石球場の近代的なデジタル時計が、刻々と時間を刻む。1分、また1分…第52回全国選手権大会決勝は、史上まれに見る大観衆の中行われる…これは間違いなさそうだ。ベンチから選手が出てきた。そして、その「合図」を待つ…静寂の戻るスタンド。そして…
審判の号令一下、「集合!!」
飛び出す新見ナイン、富山商ナイン。本塁を挟んで、互いの顔を見合わせ…そして再び、「始めます!!」の号令がかかると、脱帽、礼。…甲子園は終わり、今夏の日本高校野球、最後の闘い…第52回全国高校軟式野球選手権大会・決勝は、ここにその幕が開く。
新見先発は、ついに4日目の先発登板で4連投となる、元家。その元家が初回、一死二塁と得点圏に走者を背負うが、捕手・岡崎がこの二塁走者の三盗を刺し、打者も三振でゲッツー。ピンチを脱する。
新見打線は、富山商先発・東海投手に対し、積極果敢に食らいつくが、あと一歩のところで得点できずにいた。しかし、3回裏であった。一死から、2番・田辺がライト前へ安打を放ち、攻撃の口火を切ると、続く3番・森口がバスターで三遊間をきれいに破り、一死一二塁のチャンスをつくったのである。あまりにも綺麗なバスター…そしてこれが「日本一のバスター」として語り継がれていくことになる。
4番・谷は三飛に倒れ、二死一二塁…しかし、この次に打席に立つ5番・赤木が、ゼロ行進のこの試合を動かした。0−1からの2球目、東海渾身のストレートを思い切り叩く…その時の打球音は、「カキーン!」ではなく、間違いなく「グシャッ!」という破壊音であった。完璧に真芯を突き、「怪音」を残した打球は、追うレフト、センターを物ともせず、左中間深く、真っ二つに破る。
二塁から田辺が、一塁から森口が、次々本塁へ返ってくる。そして赤木が、三塁コーチ・辻原の指示で一気に三塁に達した時…三塁側スタンドから、大歓声と地響きが沸き起こり、そしてスコアボードには大きな2点が記された。2対0…この試合でも、先取点をたたき出した新見。つなぎにつないで、クリーンヒットで返す…3年間で一番素晴らしいと言っても過言ではない、会心の攻撃で、新見がリードを奪う。
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元家は初回から毎回安打を浴びながらも、的を絞らせない投球に、準決勝で無失策試合の記録を作った守備陣がバックアップして富山商打線を抑えていた。しかし6回であった。先頭打者に四球、一死二塁からはセカンド内野安打を打たれ、一死一三塁と、この試合初めての大ピンチを迎えたのである。
守りのタイムを取った新見は、三塁側ベンチから、林保幸が伝令に走る。内野手たちが、元家を囲み、林が監督からの指示を伝え、何やら言葉を交わし…そしてその輪の中心にそれぞれの掌を重ね、「勝つぞ、オー」という感じで下ろす。ナインの間で、いつしか行われるようになった「儀式」…重ねた掌がチームの輪を表わした。「絶対大丈夫!信じろよ!」…互いに、互いの自信を鼓舞した。どこにも負けない、強い何かがあったから…負ける気はしなかった。
粘る打者に対し、元家も粘り強く投げる。カウント1‐2から3球連続ファールで粘られながら、元家もカウントを崩さない。ストライクを投げ続けた7球目を、打者は打った。打球は投手前へのゴロ。打球を掴む元家…バックホームか?と一瞬、考えた。しかし元家は…二塁ベースに振り向き、投げた。
元家の送球をショート・赤木が掴む。これでツーアウト…そして、赤木はその球をすかさず一塁へ…タイミングはきわどい。
「アウト、アウトォ!!」…一塁審判が絶叫した。送球を掴んだ一塁・槇原はグラブをはめた左腕を天高く突き上げた。一死一三塁のピンチが…一瞬にして消滅。元家の判断が功を奏し、ピンチ脱出…そして、新見ナインの勝利の夢が、またひとつ、ふくらむ。
6回裏のヤマ場を乗り越えた新見は、迫りくる富山商の影を振り払うべく、追加点取りに走る。7回裏、先頭打者・8番元家がセンター右へ痛烈な安打を放って出塁、口火を切ると、ここで9番・槙原が執念でセーフティバントを決め、チャンスを広げる。さらに、1番渡辺の投ゴロで走者はそれぞれ進み、一死二三塁…これ以上ない追加点のチャンスに、打席に立ったのは2番・田辺。
初球だった。「カキィ!!」…田辺が振り抜くと、打球はライト線上へ高く上がった。三走・元家がタッチアップの体制を整え、ライトが捕る、その瞬間を待つ…。
「パシィ!」…ライトが捕った。「GOー!!」瞬間、スタートを切る元家。ライトはすかさずバックホーム…どちらが早いか??息をのむスタンド、滑る元家、返球を捕る捕手…
「セーフ!!」
球審の手は大きく、横に開いた。間一髪早く元家が本塁を踏む…勝負を決める「次の1点」をもぎ取ったのは、新見だった。割れんばかりの拍手が、大歓声が球場を包む…と同時に、史上初の全国制覇の夢は、いよいよ現実味を帯びて、ナインの活力となる。もう、このまま、突き進むのみだった。
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9回表、富山商は先頭の2番打者が、執念の内野安打で出塁。そして、左の3番打者が打席へ。その4球目だった。「カキィン!」…引っ張った痛烈な打球が一塁へ飛ぶ…弾丸となって、難しいバウンドとなって、槙原を襲った。
しかし。「バシィ!!」…槙原はこの打球を止めた。そして一塁ベースを踏み、打者をアウトにする。と、束の間に左手からグラブを外してボールを左手に握り、二塁ベースへ投げた。二塁には赤木が入る…まさか。
「アウトー!!」…赤木がタッチ、二塁審判が怒鳴る。まさかの、併殺打完成。「よっしゃ、よっしゃ」…ガッツポーズを見せ、マウンドに駆け寄った内野手たちは、何かを確信するかのように人差し指を天高く突き上げ、そして散っていった。
あとアウト1つ!4番・安土の打席は、球場のみならず、テレビ、ラジオを通じて、その視聴者を釘付けにした。皆が食い入るように見つめている。その瞬間を、見逃さぬように。
…そして、ついにその時は来る。
「打ちましたサードゴロ、三塁千原が捕って一塁送球、一塁はどうだ!?…アウト!!試合終了〜〜〜!!!岡山の新見高校、初出場初優勝です!!!!」 このときを待っていた、そう言わんばかり、ベンチから控え選手が飛び出した。元家に駆け寄る内野手、外野手、ベンチの選手…飛んだ、跳ねた。皆一様に、人差し指を高く突き上げ、大きな大きな歓喜の輪を作った。…間違いない、勝ったんだ。この瞬間、新見が、全国制覇を成し遂げたのだ。
「ありがとうございました!!」…さわやかな挨拶を交わす。と同時に、試合終了を告げるサイレンが響く。戦いは終わった。そして新見高校の「優勝の校歌」が流れる。
バックスクリーンに高らかに、勝利の校旗が上がる。その光景に皆、嬉し涙を流した。スタンドも、ベンチも、きっとテレビ・ラジオの視聴者も…皆が校歌を歌っただろう。この瞬間、新見という「街」が、野球を通じ、一つになる。名前も顔も知らないような人同士が、同じ喜びを分かち合う。皆、感無量の心境で、そして、感動をくれた選手との別れを惜しみながら、歌った。最後まで、歌った。
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…第52回全国高校軟式野球選手権大会(明石球場)
▼準決勝:新見×羽黒
羽 黒|000 001 000|1
新 見|100 010 00X|2
新見)元家―岡崎
▼決勝:新見×富山商
富山商|000 000 000|0
新 見|002 000 10X|3
新見)元家―岡崎
三塁打:赤木
☆新見は史上初の全国制覇を達成
- 2008/09/05(金) 21:34:09|
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